01 他人ごとではなくなった相続税
相続税というと、いわゆる「お金持ち」だけに関係することだと、これまでは捉えられていたかもしれません。ですが、この度の税制改正において決して他人ごとではなくなったといえます。
それはなぜでしょうか? 改正点とあわせて、その仕組みを以下で確認しましょう。
まず、相続税を納めなければならない場合、すなわち申告が必要となる場合はどういったケースが該当するのかを見てみたいと思います。
これまでは、相続税を控除する場合の基礎額を5,000万円+1,000万円×法定相続人の数という計算式で算出してきました。ちなみに、法定相続人とは、被相続人が亡くなったときに、相続する権利がある人をいいます。簡単に説明すると以下のようになります。
・配偶者…相続順位はなく相続権がある
・直系卑属…第1順位。
・直系尊属…第2順位。第1順位の相続人がいないときに相続権がある。
・兄弟姉妹…第3順位。第1、2順位の相続人がいないときに相続権がある。
ここでの説明においては、養子や相続放棄については触れませんが、そのような場合にも民法では細かな規定がされています。
さて、その基礎控除額についてですが、例えば、夫が死亡して相続が発生したとします。その夫に配偶者と実子が2名いた場合は、法定相続人が3名です。基礎控除額は5,000万円+3,000万円、基礎控除額は8,000万円となります。これが、これまで「金持ち」にしか関係のないと思われていた理由なのかもしれません。相続財産がこの場合、8,000万円を超えないと納税の申告対象とならなかったからです。
ところが、今回の改正で基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数という計算式になり、先の例では、3,000万円+1,800万円、基礎控除額は4,800万円となります。都心の不動産価値を考えると、グッと身近なものになりますね。
02 相続税率もUP
基礎控除額の確認が済んだら、次は相続税の税率についてご説明します。この税率も今回の税制改正によって引き上げられます。相続税は、「法定相続分」の取得金額に税率を掛け、所定の控除額を差し引いて試算されます。
上記にて、法定相続人について説明しましたが、この法定相続人ごとに相続の割合も決まっています。これを法定相続分といい、以下のように定まっています。
法定相続人が配偶者と直系卑属の場合、配偶者が1/2、直系卑属が1/2
法定相続人が配偶者と直系尊属の場合、配偶者が2/3、直系尊属が1/3
法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、配偶者が3/4、直系尊属が1/4
具体的な事例ですが、夫が相続財産6億円を残して死亡したとします。その夫に、配偶者と実子が2名いた場合には、基礎控除額は先程の事例と同様4,800万円です。相続税の総額を計算するにあたり、いったん法定相続分で分割したものと仮定して、個々の税額を算出します。
配偶者について考えてみましょう。6億円から基礎控除額4,800万円を引くと、5億5,200万円となります。この額に配偶者の法定相続分割合1/2を掛けると、2億7,600万円となります。この額が配偶者の「法定相続分に応じる取得金額」になります。これまでの税制では税率40%、控除額1,700万円なので、2億7,600万円×40%-1,700万円=9,340万円が実際に相続できる金額になります。
ところが、今回の改正では「法定相続分に応じる取得金額」が2~3億円以下の場合、税率が45%に、6億円超の場合、55%にそれぞれ5%ずつ引き上げられてしまうのです。
今回の改正では、1億円以下の場合と、3~6億円以下の場合は、税率に変更はなく、前者が金額に応じて10%~30%、後者が50%となっています。
このように課税の対象者や、納税金額は増えました。ただ、控除の申請をすれば、配偶者が実際に取得した正味の遺産額が1億6,000万円までか、正味の遺産額に配偶者の法定相続分(子供がいる場合は2分の1)を掛けた金額までは相続税はかからないとされているため実際の納税額が大幅に増える方は少ないかと思います。
また、相続控除できるものとしては、(1)贈与税額控除、(2)配偶者の税額軽減、(3)未成年者控除、(4)障害者控除、(5)相次相続控除、(6)外国税額控除、(7)相続時精算課税制度贈与税額の控除、などがあります
ご自分の相続する遺産額と、対象となる控除を忘れずに申請するようにご注意ください。
03 改正適用時期と土地の相続における注意
改正内容は、平成27年1月1日以後の相続分から適用になります。相続税の納付は、現金のほかに、物納という方法もあります。この場合の値段の評価は、相続税評価額という市場で取引される価格の2~3割引の価格で評価されます。ですので、土地の評価額と物納価格の差が大きい場合など、物納が得策ではない場合もあります。
そういった場合、不動産を売却することにより現金化し、相続税の納付に備えるなどの対応が必要になってきます。上記の計算プロセスのように複雑な内容になっているのが、現在の相続税の実態です。そのため、相続税に関する相談と対策は専門家を通じ、早めに手を打っておくことをおすすめいたします。